Runner.03 FUNA

アニメ化が発表された『私、能力は平均値でって言ったよね!』(以下『平均値』)をはじめとし、数々の人気作品を手がけるFUNA。
多くの作品を生み出したFUNAは、どのように仕事に向き合い、どのように作品をとらえているのか。
いまだ誰も知らないプライベートな一面とともに、その真相の一端をこのインタビューで探ろう。


――まずはFUNAさんの一日のタイムスケジュールを聞かせてください。
FUNA
16時に起床、入浴。その後メールチェックやネットで情報収集。20時15分に近くのスーパーへ買い出しに行き、「半額ハンター」の名を欲しいままにしています。21時15分からは「小説家になろう」(以下「なろう」)で小説を読みながら食事。22時から翌々日の7時までは執筆や感想の返事書き、ネット小説を読んだり、ネットサーフィンをする等を一定間隔で繰り返しています。
お手洗いや簡単な食事、間食等の時間は除きますが、とにかくパソコンの前に座ったままですね。そして翌々日の7時に就寝という感じです。
――驚きのタイムスケジュールですね!
FUNA
24時間ではなく、48時間を1サイクルとして生活しているんです。なので、人と会う時とかは、2~3日前から寝る時間の調整を始めるため、いきなり「今から会えないか」というのには対応できない場合があります……。
また、至近距離のスーパー以外の場所へ出掛けるのは、月に1~2度、あるかないかでしょうか。姉や友人たちには「もっと外出しろ」と言われているので、編集さんとの打ち合わせには、こちらから出向いて「出かけるための理由をつくる」ようにしています。
――ちなみに書籍の刊行が近づいた際、書籍化の作業も発生すると思うのですが、こちらはどの時間に作業を行うのでしょうか?
FUNA
執筆ほか諸々の「22時~翌々日の7時」の33時間を、その作業に振り当てます。ですが、書籍化作業のため「なろう」の更新は中断、ということはせずに3作品の更新と書籍化作業を平行して続けているので、結構しんどいですね。初稿作成、加筆修正、書き下ろし、書店特典SS、著者校正、あとがき、コメント、その他色々……。
――聞くだけでも大変そう、というのがひしひしと伝わってきます。仕事のないオフの日はどういうふうに過ごすのでしょうか?
FUNA
オンとオフの日、というのはありません。曜日も何も関係なく、全て同じ日々……。ごく稀に、友人の誘いで出かけたり、担当さんに会う日があるくらいですね。
まぁ、盆正月とGWくらいは1週間だけ「なろう」の更新を休みますが、結局、その間に書籍化作業をしているんですよね……。
――では原稿をあげ、諸々の書籍化作業も終わった後。FUNAさんにとって一番のリフレッシュ方法とはなんでしょうか?
FUNA
寝ることです!
そして、「なろう」で他の方の作品を読むことでしょうか。でも、本当は、「やっと終わった~!!」ということはないんですよね。ひとつの作品につき、作業によって何度も締め切りがありますから。それが3シリーズ分、ぐるぐる回っているし、「なろう」更新の原稿の締め切りが毎週4回あるわけですから。
――ほかにもプライベートなところをお聞きしたく考えています。「これは他の人に負けない!」というような特技があれば、聞かせてください。
FUNA
ダジャレとおやじギャグ! そして、人生の役には立たない雑学のストックです。
それらをバカにしていた友人達も、まさか私がそれで身を立てることになるとは、思ってもいなかったに違いないでしょう!
また、私の作品と同系列の作品が出ても、ダジャレとおやじギャグ、そして昭和のアニメや漫画ネタは真似できまい! と思うので、特技ということに。
――FUNAさんはアマチュア無線や気象予報士など、さまざまな資格をお持ちとのことですが、新しく何か初めてみたいことはありますか?
FUNA
既に「仕込み」の時期は過ぎているので、今はそれらを肥やしとした作品制作の方に時間を割きたいですね。
というか、時間がない! というのが本音です。
未読の本や、未視聴の録画も消化したいので……。一度、未視聴の録画がHDDいっぱいに詰まったレコーダーが壊れて、数百時間分の未視聴録画がパーになったことががが!!
――そんな悲しみのアクシデントががが!!
FUNA
また、執筆だけならばともかく、感想返しに結構時間がかかるんです。さらに書籍化作業が数ゕ月置きにぐるぐる混在して回ってくる。とにかく、「私達には、時間がないの!!」というやつですね。
――そんなお忙しい中、「なろう」で色々な作品を読むことがFUNAさんの楽しみになっているように感じます。そこでお聞きしたいのですが、今個人的に注目している「なろう」作品は? 
FUNA
まずは、雷帝先生の『竜に生まれまして』です。かなり昔に読んだ、『飛竜になりました!』の二次創作要素を抜いた書き直しオリジナル版。『飛竜になりました!』は面白かったのに、二次要素のため日の目を見ないのが惜しいと思っていた作品なので……。
次に、くまなの先生の『くま クマ 熊 ベアー』。こちらは私が執筆活動を始めるための、最後のひと押しをしてくれた作品なので、思い出深い作品でもあります。
また、たむたむ先生の『精霊達の楽園と理想の異世界生活』も外せません。これでもか、という程の安全策を取る主人公が、同じく超安全主義の私には安心して読めるんですよね。前作の『めざせ豪華客船!!』も好きだったのですが、終わっちゃったので、今はこちらに注目しています。
――では「なろう」以外の作品で、バイブル的なマンガや小説があれば聞かせてください。
FUNA
萩尾望都先生、竹宮恵子先生、中山星香先生たちをはじめとする、あの世代の少女漫画家先生たちの作品すべてです。少年漫画では長谷川裕一先生の『マップス』が印象に残っています。そして、小学生の頃から読んできた、数多くのSF小説も同様ですね。個別のタイトルを挙げればきりがありませんが、銀背のハヤカワSFシリーズ、ハヤカワ文庫SF、創元推理文庫、サンリオSF文庫、その他いろいろ。
全てが私の「心の血肉」となった作品の数々です。私の心の琴線に触れ、いや、震わせてくれた数々の作品が、今の私の知識と考え方を形成してくれた、正に「聖書」と言えるものだと思います。
――SF作品がとてもお好きという印象を受けたのですが、作家を志した理由もSF作品がきっかけになっているのでしょうか?
FUNA
そうですね。私、小学生の頃から、SF作家になりたかったんですよ。一応、別の夢もあったのですが。作家になるのより、もっと実現が困難、いや、実現不可能な夢だったので……。そして、そのものズバリではないものの、ちょっとその「実現不可能な夢」に近いものになれたので、それを引退して暇になった時に、もうひとつの昔の夢を思い出したんです。「ああ、SF作家、やってみたいな」と。
なので、私の3作品は、全部「SF」要素が入っています。神様ではなく、「超技術を持っている、高次生命体」であり、魔法ではなく、「散布されたナノマシンによる科学的なもの」であり、魔道具ではなく、「先史文明の遺産や残滓」がそれです。
――各作品に、FUNAさんの源泉である「SF」要素が盛り込まれていることがわかりました。それ以外に、作品を手がけるうえで、FUNAさんが大切にしていることはどんなことでしょうか?
FUNA
登場人物を大事にすること。登場人物をないがしろにしないことです。
なので私は、いただいた感想の返しを書く時にも「今度は、○○に××をさせます」とかいう書き方はしません。あくまでも、「○○が頑張るようです」とか、「多分、○○は××だと判断したんじゃないかと思います」というような書き方で、「登場人物は、作者の玩具や操り人形じゃない。自分の意思を持った、ひとつの人格、ひとりの人間である」という考えで書いています。登場人物も万能じゃないので、失敗や馬鹿なこともするでしょうが、「その人物は、絶対にそんなことはしない!」ということを書くことだけは、しません。
コナンが、飛行するギガントの翼の上を走ってもいいんです。足の指の力だけで体重を支えてもいいんです。でも、コナンがラナを殴るようなことは、絶対にあり得ない。そういうところだけは、守りたいと思っています。
――では作品を手がけてきたうえで、一番苦労をしたエピソードを聞かせてください。
FUNA
多くのしめ切りが集中したことでしょうか。
今現在、3作品の「なろう」更新用原稿、溜まっている感想の返し、講談社から依頼された単発原稿2本、『平均値』第8巻の叩き台、コミックス用の書き下ろし、そしてこのインタビュー等、色々と同時に抱えており……。『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』(以下『ろうきん』)の著者校正ゲラは、数日前に何とか発送したのですが……。
昨年6月には、『平均値』、『ポーション頼みで生き延びます!』(以下『ポーション』)、『ろうきん』全ての新刊が同じ月に発刊されるという事態でしたが、今年の5月には、『ポーション』と『ろうきん』のそれぞれ第3巻と、両方のコミックス第2巻が発刊されることになっています。そしてその前後を『平均値』の第7巻と第8巻が挟んでいる……。
正直言って、書籍化作品を3シリーズ続けて、「なろう」を週4回更新して、感想の返しを書いて、書籍化作業用の休載をしないのは、私の限界を少し超えていると思います。本当は、2シリーズくらいが適量なのかもしれませんね……。
時間以外に関しましては、幸いにもアース・スターノベル、講談社共に担当編集さんに恵まれ、困ったことはありません。新刊の売れ行きに一喜一憂するくらいですね。ネタが出なくて苦しむ、というのは別にして、ですが。
――そんな大変な苦労の中、制作が進行している3作品。それぞれの作品の着想ポイントと、こだわりを教えてください。それではまず『ろうきん』からお願いします。
FUNA
じつは、書籍化が一番遅かったこの作品が、「なろう」で最初に発表した作品です。
……とはいっても、『ポーション』より1日早いだけで、ほぼ同時連載でしたが。しかし、作品の構想時期は全く異なり、この作品は、私が前職に就いていた頃、何年も前から手空きの時間に頭の中でぐるぐると妄想していた作品であり、「構想十年」と言える作品です。
電車の中で。クルマの中で。お風呂で。ベッドで。ずっと頭の中で育て、エピソードを練り込んだ、渾身の作品! 何の特殊能力も持っていない普通の女の子が突然異世界へ飛ばされたら、言葉も通じないし、すぐに殺されるか、奴隷落ちだろうなぁと。生き延びても、現代知識なんか活用できるはずがないよなぁ、とも考えていました。でも、言葉が通じて、そして現代知識を活用できる方法があれば?
そう、SF作品『闇よ落ちるなかれ』の、めちゃくちゃイージー版というのが本作です。というわけで、この作品は、他の「なろう」作品の影響は全く受けていません。第一シーズンの部分までは、私がネット小説を読み始める前に構想して、頭の中でほぼ出来上がっていた作品ですので。こだわりは、「ミツハは、ごく普通の女の子である」ということでしょうか。どこにでもいる、普通の子。「ただひとつ違っていたのは、少女は、世1界間転移能力者だったのです」ということだけで……。
言語能力と転移能力だけで、普通の女の子ががんばるお話。普通。とにかく、普通! が『ろうきん』ですね。
――次に『ポーション』はいかがでしょうか?
FUNA
構想、24時間。3作品の中で、構想時間最短の作品です。『ろうきん』第1話を「なろう」に投稿した後、10分置きにPV数を確認していたのですが、初投稿の素人の作品に、そんな短時間で変化があろうはずもなく……。そんな時、「あ、この待ち時間を使って、もうひと作書こう!」と考え24時間で構想と第一話を作り上げ、投稿したのが『ポーション』です。
コンセプトは、『地球に戻れなくても生きていける程度の能力を持った少女』。……正直言って、『ろうきん』より『ポーション』の方が売れ行きがいいのは、複雑な思いが……。
――では最後に『平均値』に関しても聞かせてください。
FUNA
この作品は、構想5日で誕生しました。
『ポーション』が完結し、『ろうきん』があと5日で完結する。このままでは暇になってしまう。せっかく私の作品を読んでくれていた読者さんとの繋がりが切れてしまう。どうすればいいだろうかと考えた時、「『ろうきん』の最終投稿日に次回作の第1話を投稿すればいいじゃん!」と思いつきまして。5日間でゼロから構想を始めて、5日後には第1話が完成。『ろうきん』最終話のあとがきにて告知。書き溜めゼロでのスタート。……12時間後には、日間ランキング2位。マジか……、という思いでした。
これは、『平均値』の力ではなく、『ポーション』と『ろうきん』からの、後輩に対する贈り物。前2作品が、『平均値』を打ち上げるための第1段ブースターと第2段ブースターになってくれたんだ、と考えました。コンセプトとしては、「象が踏んでも壊れない女の子」。地球に戻れなくても、そんなの関係ねぇ! 頑丈で、安心して冒険に出せる女の子ががんばる作品、というものですね。
――最新刊の発売も迎え、ますます盛り上がる『平均値』。そしてついにアニメ化の発表もされましたが、その第一報を聞いたときの心境は?
FUNA
夢見たことはあったけど……。まさか、本当にこんな日がやってくるなんて……。という気持ちでした。あと「いや、まだだ! まだ、慌てるような時間じゃない! 発表後にポシャった例も、いくつかある。DVD売り上げ3桁の作品もある。原作の売り上げがかえって落ちたという作品もある。正直言って、まだ、安心するのは早い! ……多分、もうすぐ病院のベッドの上で目を覚ますんじゃないかな。(^^ゞ)」と感じたのを覚えています。
――ありがとうございました。それでは最後に、ファンの方々へメッセージをお願いします。
FUNA
自己満足の投稿で、数百人の人に読んでもらえれば、と思って始めた、小説投稿サイト「小説家になろう」への投稿。それがまさか、書籍化されるとは思ってもみませんでした。せめて出版社が赤字にならず、続巻が出してもらえるだけでも売れてくれればなぁ……、という気持ちでしたが、「え、緊急重版で、コミカライズ? え、ほかの2作品を、両方、コミカライズと同時進行で? え、『平均値』、アニメ化? え? え? えええええええ?」と、常に想像の一歩前を現実は行っていました。これも全て、私の作品を「なろう」で読み、ブックマークを付けて下さった読者さん。書店で買って下さった読者さん。そして、本の製作や流通に関わって下さった、大勢の方達のおかげです。私にできるお礼は、「書き続けること」しかありませんが、これからも、私の作品にお付き合いいただけますよう、お願いいたします。そして、無事、皆様に「動いて、喋るマイル達」をお届けできますよう……。

★Y.Aさんからのリレーインタビュー★

――女性主人公の作品ってどうやって書いたら良いでしょうか?(Y.A)
FUNA
作品の構想は、「素敵な女の子が活躍するお話を読みたい!」というトリガーで、「よし、自分が読みたい話を、自分で書くか……。それなら、自分が面白いと思う作品が読めるはず!」という理由で始まります。なので、世間の流行も、購読対象年齢への配慮も、ガン無視! ただ、自分が読みたい作品、自分が描きたい作品を書くのみ! 「俺の小説を読めええぇ~~!!」(熱気バサラかッッ!!)
女性の描写については……、う~ん、私、昔は月刊少女コミック誌は全て読んでいたんですよ。別冊マーガレット、別冊フレンド、ベツコミ、りぼん、プリンセス、その他諸々……。そして、姉がふたりもいる。なので、そのあたりから、私の「女の子って、こんな感じ」というイメージが出来上がってしまっています。萩尾望都先生、竹宮恵子先生、中山星香先生、沖倉利津子先生、陸奥A子先生、その他大勢の少女漫画家の先生方の作品や、少年漫画やアニメに出てくる多くのヒロイン、名脇役の少女達。そしてSF小説に登場する少女達。
それら、私が「どんな子か、よ~く知っている」何百、何千もの少女達の全てを内包する、混沌の海。そこに向かって、「お~い、こんな小説書こうと思うんだけど、主役やりたい人~!」って呼ぶと、「私! 私、やる!!」って出てくるんですよねぇ……。なので、キャラの性格設定なんか、考えたことがありません。出てきた時に、もう全て決まっていますから。何と言いますか、「このキャラはこういう性格で、ええと、こんな時にはこう考える子で……」などという、パーツを組み合わせて性格を決めていく、というようなことは全くありません。出てきた時点で、既に完成された一個の人格なので。
だから、「このキャラに、こういうことをさせて、こう動かして……」などと考えて書いたりはしていません。こういう状況になれば、この子はこう動き、あの子はこうする。そういうのが分かっているから、意識して「こうさせる」、「こう動かす」などと考える必要がなく……。なので、仕草や心理描写も、ただ、「その人物の状況を、そのまま書くだけ」です。
他の作家さんでいうと、平井和正先生の「言霊」に相当? あまり参考にならない回答で、すみません。
――原稿が詰まった時のオススメの方法は?(Y.A)
FUNA
もう、パソコンの前を離れるしかないですね。一番打開案が浮かぶのは、お手洗いで腰掛けて、ぼ~っとしている時。次点が、電車で座って、ぼ~っとしているとき。立っていちゃ駄目。座っていないと。
でも、電車で出掛けるのは月に1回あるかないかなので、普通はお手洗い。なぜか、同じようにぼ~っとしていても、お風呂やベッドでは駄目なんです。謎だ……。パソコンの前に座って、無理に考え込んでも駄目ですね。無理矢理、少し進めることができても、画期的な案は浮かばない。やはり、必死で考えて案を無理矢理絞り出すのではなく、ぼんやりして、楽な気持ち、追い詰められない自由な気分で、とりとめのない空想に耽り、自分がその空想を楽しんでいる時に、「あ、これだ!」って案が浮かびます。
原稿は、苦しみながら書いちゃ駄目です。楽しくやらなくちゃ。苦しい思いで書いた文章だと、読者さんが楽しめない。ノリノリで、お馬鹿な勢いで、わくわくしながら書かなくちゃ!
Profile

FUNA ふな

作家。主な著作に『私、能力は平均値でって言ったよね!』(アース・スターノベル)『ポーション頼みで生き延びます!』(Kラノベブックス)『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』(Kラノベブックス)がある。
https://www.amazon.co.jp/dp/4803012105