Runner.05 篠崎 芳

WEB作家にインタビューを敢行する本企画。
その第5回は『ハズレ枠の状態異常スキルで最強になった俺がすべてを蹂躙するまで』(以下『ハズレ枠』)の著者・篠崎芳。
「小説家になろう」(以下「なろう」)で大きな人気を博する『ハズレ枠』を手がける篠崎芳のプライベートに迫るとともに、発売間近となる『ハズレ枠』最新刊の読みどころも併せて聞いた。


――まずは小説を書き始めたきっかけからお伺いします。幼少時からずっと小説は書いていたのでしょうか?
篠崎
いえ、小説を書き始めたのは大学2回生の冬からですね。
じつはそれ以前は漫画を描いていたんですよ。
――そうなんですか!? 漫画を描くようになったきっかけは?
篠崎
もともとキャラクターや物語を空想するのが好きだったんです。
学校の授業を聞かずに妄想をしていて、次の授業で分からなくて焦る……ということもありました(笑)。
そして中学生の時に友人から「一緒に漫画を描いて投稿しよう!」と誘われたのが、描き始めたきっかけです。
――自分の中の空想を漫画という形でアウトプットし始めたんですね。
篠崎
はい。もともと漫画を読むことが好きだったので、始めるとすぐにのめり込んでいきました。
ですが私を誘った友人はあっさりと辞めてしまったんですよ。
高校では、ほかに絵を描いている仲間を見つけられなかったので、ひとりで黙々と描いていました。
転機になったのは大学で入った漫研サークルでした。
――ようやく同好の士を見つけたんですね。
篠崎
仲間を見つけられたのは嬉しかったのですが、その仲間たちの才能を目の当たりにし、漫画に対する自信を無くしてしまったんです。
とにかく感性で描ける人もいれば、すごく理論的に漫画を描く人もいる。
自分ではこの人たちに勝てない。
そう思ったのを今でも覚えています。
――そして小説家を志すようになった。
篠崎
はい。漫画のプロットはずっと文章で作っていたのですが、その作業は割と得意なほうだったんです。
文章で作品を作ること、それが自分の武器になるかもしれない、と考え小説を書き始めるようになりました。
――では、そんな篠崎さんのバイブルと言える漫画・ライトノベル作品をそれぞれ聞かせてください。
篠崎
漫画ではやはり『SLAM DUNK』でしょうか。
特に山王工業高校戦は強く印象に残っていますね。
――どういったところが印象に残っているのでしょうか?
篠崎
上手く言葉にはできませんが、あのドライブ感ですね。
主人公サイドである湘北高校側とのパワーバランスもさることながら、ページをめくるごとにテンションがあがっていくような熱さは筆舌につくしがたいです。
僕もあんなラストバトルが書けたらいいなと思いますね。
――『SLAM DUNK』以外では何かありますか?
篠崎
僕の一番好きな漫画『ガラスの仮面』ですね。
――明らかに篠崎さんの世代ではない気がします(笑)。
篠崎
そうですね(笑)。
というのも、僕の母親が唯一購読していた漫画が『ガラスの仮面』なんです。
それを借りて読んでいたらどっぷりハマってしまい。
――そういえば、私の母親の本棚にも『ガラスの仮面』がありました。
篠崎
母親世代の『ガラスの仮面』読者率は高そうですね。
まだ漫画を描いていた時は、主人公の北島マヤともうひとりの主人公にしてライバルキャラである姫川亜弓、2人の関係性をモチーフにして作品を作ろうとしたこともあったぐらい好きでした。
――それはぜひ読んで見たかったです……! ではライトノベルでのバイブルは?
篠崎
数えきれないほどあります。
ですが強いて挙げるとすると西尾維新先生の『戯言シリーズ』、奈須きのこ先生の『空の境界』、安井健太郎先生の『ラグナロク』、片山憲太郎先生の『電波的な彼女』でしょうか。
――それぞれどんなところに惹かれたのか聞かせてください。
篠崎
『戯言シリーズ』は、あえて王道を外していく展開や、さまざまな要素が絡み合っているところ。また当時セカイ系が流行っていて、僕もドハマりしていたので、本当に好きな作品ですね。
『空の境界』は文章の美しさでしょうか。ツヤというか色気という部分での美しさ。字面だけを見て、美しいと思うことなんてそうそうないですからね。
『ラグナロク』は戦闘シーンのクオリティは言わずもがな、世界観の作り方や関係性を積み重ねることで描写していくキャラクターたちの魅力。
そして『電波的な彼女』は、僕がやりたかった「ライトノベル的サスペンスの理想像」だったので、強く惹かれたのを覚えています。
――そういった作品に触れたことで、篠崎さんの作品にも何か変化はありましたか?
篠崎
大いにあると思います。
たとえばルビの付け方やダーシや傍点を用いた文章表現もそうですが、明らかに文体は変わったかなと。
――文体というと、今手がけている『ハズレ枠』では、何か文体で意識していることはありますか?
篠崎
読みやすさは意識しています。
文章が長くなり、一文が次行へと続いてしまうと、視線が煩雑になると思うんです。
なるべくシンプルな視線の動きで文字が追えるよう、一文一文を短くすることを心がけています。
――確かに、『ハズレ枠』は読みやすさも作品の魅力のひとつになっているように感じます。話題は異なりますが、篠崎さんにとって、人生の転機となったような作品はありますか?
篠崎
『新世紀エヴァンゲリオン』ですね。
ある意味でクリエイターとしての原動力にもなっています。
――原動力……「クリエイターとして活動し続けて、いつかこんな作品を作ってみたい」という感じでしょうか?
篠崎
はい。それぐらい僕の中ではインパクトがあって、思い出深い作品になっています。
テレビシリーズや旧劇場版などを見た時に「これは自分のために作られた物語だ!」と感じた視聴者がたくさんいたようですが、当時は僕もそのひとりでした(笑)。
受け取り手がシンパシーを感じてくれて、なおかつ受け取り手が考察をして盛り上がってくれる。
そんな作品を僕も手掛けてみたい、という気持ちはずっと胸に抱いていますね。
それ以外の部分でも、キャラクター造形や演出、娯楽性を追求したエンターテインメントとは何か、作品を書く上で自分が絶対に外してはならない要素は何か……など、多くの気づきを与えてくれた作品でもあります。
――では、ここからはさらにプライベートなことをお聞きしますが、大まかな1日のタイムスケジュールはどのような感じでしょうか?
篠崎
おおよそ7時には起床をして、午前中に執筆作業を行います。
そして午後は諸々の書籍化作業や事務作業などをこなして、遅くとも0時にはベッドに入るようにしています。
――執筆作業は午前中なんですね。
篠崎
はい。どんなに長くとも執筆時間は4時間におさめるようにしています。
また、書く分量をあらかじめ決めておいて、書き切ったらその日の執筆は終える、というルールも設けるようにしています。
――村上春樹先生も同じような執筆スタイルだと記憶しています。
篠崎
以前はわりとタイムスケジュールをなあなあにこなしていたのですが、その時よりも生産性は改善したように思います。
――ちなみに、改善しようと思った理由などはあるのでしょうか?
篠崎
昨年にひどく体調を崩してしまったんです。
その時に、改善しないと体が本当にヤバい……となり。
健康に気を遣い、生活改善を行ったおかげで体はだいぶ快調に向かっています。
定期的に「小説家になろう」を更新するためにも、この生活は続けていきたいですね。
――体の調子が優れないと、もどかしさも抱いてしまいそうですね。
篠崎
書きたくても体調不良のため書けない……という状況は辛かったです。
気分も沈みがちになってしまいましたから。
そんな中、本当に励みになったのは読者の方々の温かいコメントでした。
なので、この場を借りてお礼の言葉を。
皆様、ご心配をおかけしてしまい申し訳ございません。そして色々お気遣いいただきましてありがとうございました。
作家である僕が皆様にできる恩返しは、作品を書くことだと思います。
これからも精一杯がんばっていきますので、よろしくお願い申し上げます。
――ありがとうございました。ちなみに、インタビューはまだ続きますので、もう少しお話しをお伺いできればと存じます。篠崎さんが今ハマっていることは?
篠崎
やはり健康増進でしょうか。
今はウォーキングがマイブームですね。
家の近くの公園をウォーキングするのですが、思ってもみなかった副産物もあり。
――どういった副産物があったのでしょうか?
篠崎
作品のアイディアですね。
ウォーキング中は本当にアイディアがわいてくるんですよ。
今思い返せば、『ハズレ枠』に盛り込まれているアイディアは、ウォーキング中にひらめいたものが多いような気がします。
――まさに一石二鳥ですね! ほかには何かハマっているものはありますか?
篠崎
あえて挙げるとすると「創作活動」かもしれません。
新しい作品や、自分が今まで挑戦したことのないようなジャンルに活動の幅を広げてみたい! と思うことはありますね。
――では、何も仕事が無い日にする最高の贅沢は?
篠崎
「何もしないこと」でしょうか。
何もしなくてもいいような自由な状態が許されているということ、それが最高の贅沢のように感じます。
もし手持無沙汰になったら、何かに手をつけてもいいわけですから。
ですが、もし時間やお金を気にしなくてもいいのであれば、旅行に行ってみたいですね。
――国内でしょうか? それとも海外?
篠崎
できれば海外。
特にヨーロッパに行ってみたいですね。
フランスのルーブル美術館や、イタリアのヴェネツィアの風景には憧れがありますから。
――月並みですが、『ローマの休日』を観てから「一度はローマに行ってみたい!」と思うようになりました。
篠崎
私も洋画が好きで、よく観ることがあるんです。
そんな自分が視聴してきた作品の舞台になっているような場所や、映画で目にした風景を実際に見たいなと思うことはよくありますね。
ストレスからも解放されそうだなあと。
――ストレスというと、篠崎さんが経験した人生で一番の修羅場は?
篠崎
お仕事の話になってしまいますが、しめ切り前の徹夜でしょうか。
特に思い出すのは『聖樹の国の禁呪使い』第1巻の時のことですね。
膨大な文字数を、書籍の規定ページ数に収める必要があったのですが、あれは苦労しました……!
――担当編集は何か言っていましたか?
篠崎
「いけます!」と(笑)。
僕は内心「無理だろう……」と思っていたのですが、やってみると収まったんですよ。
まさか本当にできるとは思いませんでした。
その経験から、無理だと思っていても、とりあえずは手をつけてみる、という挑戦心は得られたように思います。
――得られたものがあって本当に良かったです……!
篠崎
もうやりたくないですけどね(笑)。
――担当には言っておくようにします(笑)。最後にはなりますが、5月25日に発売される『ハズレ枠』第3巻の読みどころを教えてください。
篠崎
とあるシーンに入れた、書籍ならではの凝った演出は読みどころのひとつだと思います。
ほかは、書籍だけの書き下ろしコンテンツでしょうか。
そして、イラストレーターのKWKMさんが手がける、クオリティ抜群の素晴らしいイラストも是非見ていただきたいです。
――それは楽しみですね!
篠崎
あと読みどころとは少し異なるかもしれませんが、「なろう」に掲載している『ハズレ枠』を「トーカの物語」とすれば、書籍は「トーカとセラスの物語」という色彩が強くなっています。
『ハズレ枠』を「2人の物語」として楽しみたい方は、ぜひ書籍をご購入いただければ、大変ありがたいです。
――ありがとうございました!

Profile

篠崎 芳 しのざき・かおる

作家。『聖樹の国の禁呪使い』『ハズレ枠の状態異常スキルで最強になった俺がすべてを蹂躙するまで』を手がけている。
『聖樹の国の禁呪使い』は現在第1~9巻がオーバーラップ文庫より発売中。
『ハズレ枠の状態異常スキルで最強になった俺がすべてを蹂躙するまで』は現在第1~2巻がオーバーラップ文庫より発売中。最新第3巻は5月25日発売。
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