Page.03 東西

イラストレーターのインタビュー企画である本企画。
待望の最新第3巻が12月に発売される『暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが』(以下『暗殺者』)。
その『暗殺者』の美麗なイラストを手がける東西が、本企画に登場。
インタビューをとおして、彼の創作論・原点に迫る。


――小さいころから絵を描くことに興味を抱いていたのでしょうか?
東西
小さいころは、描くことよりも見ることのほうに興味がありました。
私の母親が結構絵心のある人で、イラストの模写なんかもスラスラーっとやってくれる人だったんですよ。
なので、『ポケットモンスター』のカードを渡して、それを母が模写するのを見て楽しんでいましたね。
――それでは自分で絵を描き始めたのは?
東西
確か高校の卒業が近づいてきた季節だったと記憶しています。
私は学校の科目でいうと数学が好きだったので、始めは円や三角、四角といった図形を描いていました。
ですが、ただ円を描くだけじゃ面白くないと思い、目を描き加えたりしたのがきっかけです。
――それがプロのイラストレーターとしての第一歩だったんですね。
東西
そうですね。
そして進路に悩んでいた時、仲の良かった友人から「絵を描くんだったら、専門学校に行ってみないか?」と誘われたんです。
最初は「私はいいよ」と拒否をしていたんですが、最終的にはその友人に無理矢理連行をされてしまいまして。
――おかげで今の東西さんがあるので、個人的にはその方には感謝しかありません(笑)。
東西
持つべきものは友ですね(笑)。
しかしながら、よく他のイラストレーターの方からは「めずらしいね」、と言われることがあります。
今現在活躍されているイラストレーターの方は、物心つくころからイラストを描いている、というのが大半だと思います。
ですが私は、本格的にイラストを描き始めたのは専門学校に入ってからだったので。
――では小さいころの夢はどのようなものだったのですか?
東西
プロの野球選手ですね。
家がスポーツマン家系だったので、ずっと野球をしていたんですよ。
中学生の時にはリトルシニアにも所属していました。
ですが高校生になった時、いろいろ思う所もあったのでやめたんです。
――そして高校卒業時には夢が「イラストレーター」になった。
東西
はい。
ですが私が進学した年に、その専門学校はイラストレーター課が廃止になってアニメーター課しか残らなかったんですよ。
なのでアニメーター課に進学し、卒業後はアニメーターとして就職することを決めたんです。
とりあえずエンタメ業界に飛び込んで、いろいろと経験を積んでやろう! と思って。
――ご自身にとっての修行期間というわけですね。確かにアニメーターだと描く分量も膨大ですからね。ちなみにアニメ制作会社への就職を決めてから、自身のスキルアップのために何か行っていたことなどはありますか?
東西
「常に絵を描いているのが当たり前」という生活ルーティーンを作ること。
そして枚数をこなすことでしょうか。
クオリティの差はあれど月300~500枚描くことですね。
これはスキルアップの為でもありますが、やっておかなければアニメーターとして仕事にならないだろう、と思ったからです。
――学生の時にそれを自身に課すのは大変だったのでは?
東西
大変でした(笑)。
時を同じくしてダンスも始めたのですが、週3でダンスを練習して、週2でバイト、それ以外の時間はほぼほぼ絵を描くことにあてていました。
専門学校への通学時間が往復で4時間ほどあったのですが、その通学時間の間にも絵を描いていましたね。
――その積み重ねがあったからこそ、スキルアップもできて、アニメーターとしても働けたんですね。
東西
今となっては本当に取り組んでいて良かったなと思います。
そのおかげで入社後は動画から原画にもあがれましたから。
そして原画にあがってしばらくしてから退職を決意し、夢だったイラストレーターになった、という感じですね。
――アニメーターを経験したからこそ、今のイラストに活かせている要素などはあったりしますか?
東西
趣味であるダンスもそれにひと役買っていると思いますが、動きが見えるイラストを描けるようになったのはそうかなと。
アニメーションでいうところの、原画と原画の間をつなぐためのコマ、「中割り」を描いていたおかげですね。
――静止画であるイラストに動きの要素を取り入れられるのは、非常に大きな強みであるように感じます。ほかにはイラストを描く際に何か意識していることはありますか?
東西
上手くデフォルメして作品の世界感に落とし込むことでしょうか。
デッサン力も確かに大切だとは思いますが、あまり一部分だけリアルになりすぎると違和感が出てくると思うんですよ。
――キャラクターの顔はデフォルメされているのに手や首筋などがすごくリアルだと、なるほど違和感を覚えるかもしれませんね。
東西
忠実すぎるデッサンに囚われないデフォルメ化は、その描き手の個性に繋がり、表現の上手さにも繋がると考えているんです。
なのでイラストを描く際には、そのことも意識するようにはしていますね。
ほかにはバックグラウンドを意識させられるように、できるだけ要素を入れこむことでしょうか。
――それはなぜですか?
東西
考えることを楽しんでほしいから、ですね。
私自身エンタメ作品が好きで、さまざまな作品を見た時にいろいろなことを考えるんですよ。「この演出にはどういう意図があり、ストーリーやキャラクターの何を表現しようとしているんだろう」とか「このキャラクターはこんな衣装を着ている。ひょっとしたら彼女の故郷はこんな国なのかも」「彼のこのセリフは、彼の半生がこうだったからこそ出てきたのかもしれない」といったものですね。
そういったことを自分なりに考え、誰かと話すのが本当に好きなんですよね。
だからこそ自分のイラストでも、そういったバックグラウンドを意識してもらえるようにしているんです。
――作品を楽しむだけでなく、自分なりの解釈を持って誰かと話をするのは楽しいですからね。その気持ち、すごく分かります……!!
東西
だからこそ特に理由もなく女の子キャラクターを安易に脱がしたりすることはあんまりしたくないんですよね。
たとえばデフォルトの衣装がすごくハレンチなものだったりすると、「あれ? この世界観ってこういう倫理観なのかな」みたいなことを考えてしまうんです。
もちろん、まっとうな背景であったり理由がある場合は全然気にならないのですが。
――次もイラストに関することをお伺いします。作業をしていて一番時間をかけるのはどの工程でしょうか?
東西
構図出しです。
構図は私的には完成イラストの設計図なんですよね。設計図である構図が上手く組み立てられなければ、完成イラストが心に響くものにならないと考えているんです。
なので、イラストレーターとして活動をし始めてすぐのころには、アニメーターとして描いていた原画などを思い返したり、いろいろなイラストやマンガを読んで試行錯誤をしていました。
最近になってようやく、こういう感覚でこう配置すれば良いイラストができそうだ、というあんばいが掴めてきたところです。
――では描いていて一番楽しいキャラクターはどういったキャラクターですか?
東西
模様やあしらいをたくさん入れられるような、ふわっとした三角形の服を着ているキャラクターでしょうか。
それだとたくさん要素を入れこむことができますから。
あとはジト目のキャラクターも好きですね。
無表情だけど感情表現してくれているようなジト目感? なんと形容すれば良いのかは上手く言えませんが……。
あと、カッコいい男性、男前な年上キャラも好きです。
――先ほどのバックグラウンドの話にも繋がると思いますが、そういったキャラクターのほうが、その一挙手一投足でいろいろと考察できますからね。話は変わりますが、お仕事のない日はどのようなことをして過ごしているのでしょうか?
東西
何も考えずに自分の好きな絵を描くか、友人と会っておしゃべりをしたりしています。
いろいろな話ができて本当に楽しいんですよ。
――ご友人もイラストレーターやアニメーターなのでしょうか?
東西
いえ、ダンスつながりの友人であったり、役者をめざしていた友人であったり、単に中学校が一緒の人だったりとさまざまですね。
ですが、自分とは異なる分野で活躍をしている人たちと話をすることによって、自分では気づかないことに気づかせてくれたりもするんですよ。
――どういったことをお話するのでしょうか?
東西
ざっくりと「表現とはなんぞや」といったことですね。
「私はこう考えている。私の仕事はこれで、アプローチはこうだから、私はこう表現しているんだよ」
「なるほど。じゃあ俺はこの仕事をしていて、こういう性格の人間だからこう表現しているんだ」
「なるほどなぁ。私にはこういう面もあるから、私たちの表現方法は異なるけれどもニアミスする部分もあるかもしれないね」
みたいな感じでしょうか(笑)。
――なるほど。同業者とのお話でも得られるものはあると思いますが、自分とは全く異なる分野に携わる方と話をすることによって、新たな発見などがあるかもしれないですね。
東西
人物の動きに対する知見などでは、ダンスをやっている人間や、役者の人間から聞くことで見いだせるものもありますから。
しかも自分にとっては未知の分野の話なので、聞いているだけでも楽しい。
世界の見方が変わります。
――そういえば、東西さんを絵描きの道に文字通り引っ張って行ってくれたのもご友人でした。そう考えると、本当に良いご友人に恵まれているように思います。
東西
ありがとうございます。
そういえば、キャラクターデザインを友人に見てもらったこともありましたね。
「申し訳ないけど、この作品ちょっと読んでもらっていい? どう感じた? 私はこうデザインして、こうやってるんだけど、このデザインどうかなぁ?」という感じでした。
――ご友人の反応はどうでしたか?
東西
「読んだけど、これこうしたら良いんじゃないの」というリアクションがありましたね。
なので「なるほど。じゃあこうしてみるわ」みたいな。
ひとりきりで孤高に作業をするのもアリかもしれませんが、やっぱり人に聞いたほうが良いように思うんですよね。
先ほどのお話のように、自分では気づかないことに気づかせてくれたりもしますから。
――自分だけだと意見や考え、表現が狭くなる危険もありますからね。
東西
そうなると結局良い案やデザインが出てこなかったり、イラストを煮詰めきれなかった、ということにもなりかねないですから。
なので、友人もそうですが担当編集の方に相談することもよくあります。
――ほかにご友人とはどういった話をするのでしょうか?
東西
普通にエンタメに関する話題で盛り上がることもありますよ。
違うジャンルの作品をお互い見て、それを交換するんですよ。
そうして「あの何話のあれがさ~」「お前わかってるな~」「あそこすごく面白くね?」みたいに一日中喋るという(笑)。
取り留めのない会話ではありますが、オフの日の良い気分転換にもなります
――では東西さんにとってバイブルといえるエンタメ作品はどういったものがありますか?
東西
押井守さんの作品は本当に好きですね。
押井さんの価値観というか世界観みたいなものがありありと感じられて、新たに気づかされることも多かったので。
ほかには『ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日』やガイナックスさん、トリガーさんの作品なども好きですね。
ほかにも、『ARIA』をはじめとした天野こずえさんの作品は外せません。
私をエンタメの道へ導いてくれた大きなきっかけとなっているので。
――『ジャイアントロボ』も『ARIA』もめちゃくちゃ面白いですよね……。語り合いたいので、今度呑みに行きましょう(笑)。では尊敬するクリエイターの方は?
東西
押井守さん、吉成曜さん、pakoさん、左さん……全部あげていくとキリがありませんね。どの方もステキな作品を作られる方ばかりなので、私の原点でもあり憧れの存在です。
――そういった憧れの方たちに近づくため、日々努力を重ねていると思いますが、東西さんが考えるイラスト上達の方法とは?
東西
多くの作品に触れて自分の知識を高めていくことと、表現や演出方法を自分の中に落とし込んでいくこと。
そして何よりも数をこなすことでしょうか。
――何事も練習、ということですね。
東西
はい。
ですが、ただ漫然と数をこなすだけではダメだと思うんです。
以前有名な方がこう仰っていたんですよ。
「500回ただ素振りしても、単に同じ動作の繰り返しで腕が太くなるだけ。でも500通りの状況をシュミレートした中で素振りをしたら500通りの対処ができるよね」と。
それを考えると、絵を描くにも毎回毎回やりたいことを見つけてやったほうが良いように思いますね。
――そういったことを考えて描けば、自分の引き出しを増やすことにも繋がり、可能性も広がりそうですね。では最後に、クリエイターを目指す方にメッセージをお願いします。
東西
例えばライトノベル作家を目指す子ならば、色んな作品を読むべきだと思います。そして「あぁ面白かった」で終わるのではなく、この人物はどうやって、どういう思いでこういうことをしたのか、とかを考えたほうが自分にとってプラスになるのではないでしょうか。
絵に携わるお仕事に就きたいという子は、まずはマンガ家なのかイラストレーターなのか、自分がどの職種に携わりたいのかを自身に問いかけることが大事だと思います。その上でマンガのコマ割やアニメの演出など、絵以外の総合的な部分にアプローチする時間も作っていくと良いのかなと。
ただ、人それぞれ修練の時間や方法など適正は異なります。
なので、いろいろな方法論の中から自分に合った方法論を長い時間をかけて作っていくという所信を持つこと。それは何か物事を極めようとする上で、とても大事になってくると思います。
今のご時世ソフトウェアの発達のおかげで、可能性は大きく広がっているように私は考えているんです。なので、自分のしたい仕事に何が必要かをよく考え、準備をしてください。
準備をした結果仕事が来て、驕ることなく毎回自問自答してステップアップしていけば、仕事は続くと思います。
自分がやりたいことをやるためには一体何が必要なのか、ということを考えることは必要不可欠ですから。
――ありがとうございました! あと良い友人を作ることも大切かもしれませんね。
東西
はい。
自分を等身大で見てくれる友人は大事ですね。
持つべきものは友です(笑)。

Profile

東西 とうざい

『暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが』を手がけているイラストレーター。
現在は第1~2巻がオーバーラップ文庫より発売中。
最新第3巻は12月発売予定。
https://www.amazon.co.jp/dp/4865543279