Another World.01 秋田禎信×安井健太郎

『魔術士オーフェン』(以下『オーフェン』)シリーズを手がける秋田禎信と、『ラグナロク』シリーズを手がける安井健太郎。
ライトノベル界の大御所として、今も活躍を続ける2人のスペシャル対談が実現! かねてより交流のあった2人は、互いの作品に何を思い、そしてライトノベル業界について何を思うのか。
その対談の様子を余すところなくお伝えしよう。

「ライトノベル作品の完成度は全然違う」(秋田)

――お2人が初めて会ったのはいつ頃のことでしょうか?
秋田
デビューしてから、結構後のことだと思いますよ。
安井
確か、初めて会ったのはKADOKAWAか何かの新年会じゃないですかね?
秋田
でもちゃんとお話をしたのは、だいぶ後でした。
――秋田さんがデビューしたのが1991年。そして安井さんがデビューしたのが1998年。まずお伺いしたいのですが、デビューされた頃と比べて、ライトノベル業界はどのように変わったと考えていますか?
秋田
作品としての完成度ですね。
当然ながら作家も編集者も世代が変わりました。私がデビューした当時は「ライトノベル」(以下「ラノベ」)という言葉もなかったですし、いろいろとでたらめだったんですよね。
何をやってもよかったし、フォーマットみたいなものもなかった。
そこから20年以上経って、編集者も含めてラノベというものを知っていて、ラノベを作るためにラノベを書くようになっている。
だからこそラノベ作品の完成度は全然違う。
それはすごく感じますね。
安井
「小説家になろう」(以下「なろう」)に投稿されている作品を読むと、文章が上手いなと感じる作品もありますよね。
全体的なレベルが上がっていると思います。
――全体的にレベルが上がった理由とは?
安井
はじめから「ラノベ」として作られているものを、出版社側がどんどん送り込んでいて、それを作家の卵である読者側がどんどん受け取っているからでしょうか。
先ほど秋田さんが話したこと、それがずばりの回答だと思います。
だからこそ文章もうまいのですが、何よりラノベとして上手い。
ラノベを書くためにちゃんと吸収してきて、それを出している。
秋田
そうですよね。
レベルは私たちがデビューした当時と比べて圧倒的に違うと思います。
――安井さんは「なろう」作品を読まれているそうですが、秋田さんは「なろう」の作品などを読まれたりしているのでしょうか?
秋田
じつは、見たことがないんですよ。
でも、周囲から話を聞いたり、情報を集めたりしていると「なろう」の話題が出てくることは多々あります。
そういった話を聞いていると、作品のためにきちんと勉強もしているので、すごいなぁと。
安井
僕も秋田さんも出版社の新人賞でデビューをしましたが、新人賞に送る時って、自分が面白いと思ったものを送るわけじゃないですか。
ですが、今の「なろう」で書いている人たちは、ウケ狙いであったり流行であったりを真剣に考えて、勉強していますよね。
秋田
それに、「なろう」の流行ってめまぐるしいじゃないですか。
それにちゃんと合わせているっていうのは、真剣じゃなきゃできないことですから。
安井
商業で流行に合わせるのは、儲かるからやるわけじゃないですか。
でも「なろう」は、書籍化したら別ですが必ずしもそうではない。
自分が書きたいものでなく、わざわざ読者が読みたいものを書こうとしているところは、ある意味プロだなと思います。
――ラノベの今をお伺いしたので、ラノベのこれからもお伺いします。出版不況が叫ばれる昨今ですが、これからラノベ業界はどうなっていくと考えていますか?
秋田
悲観的な考えと、そうでない考えがあります(笑)。
――では、まず悲観的なほうをお願いします。
秋田
一種のパンドラの箱みたいなものだと思うんですけれど、皆じつは本なんか読みたくないってことがバレてしまった、というところはあると思います。
これはラノベ云々というよりも本全体の話になりますが。
本を読んでも得にならないということが分かってしまったので、誰も話題にしない。
紙の本を読むという行為自体をとってくれないので、WEB上で本を読めるように誘導する仕組みを作ろうと各出版社さんがいろいろと行っている。
これはコミックも同じですよね。
そうなっていく中でなんとなく思うのは、作家という職業はいらなくなるよな、ということです。
――確かに、「なろう」に投稿されている方は、プロではない方が多いですからね。
秋田
伝統として、紙の本を残したいという気持ちは分からなくもない。
その感情を私は共有しないとは言いません。
でも、変わるもんはどうしたって変わるもんだから、と思ったりはします。
だから若い方たちが新しいものを作るのを邪魔したくはないですよね。
安井
そうですね。
僕たちと若い方たちは作家としては全く異なる。
でも、それを否定するようなことはしたくない。
それは僕も同じです。
秋田
謙遜とか意地で言っているわけではなく、若い方のやることのほうが常に、絶対に正しいとも思いますからね。
――次に、悲観的ではないほうの考えを聞かせてください。
秋田
本は読まれなくなったけれども、それはコンテンツ自体の需要がなくなったわけではない、ということですね。
冒頭でもお話しをしましたが、今若い作家の方はとても面白いラノベを作ることができる。
そもそも出版不況の原因は、本を取り巻くシステムが原因だと私は考えているんです。
決してラノベのコンテンツが面白くないということではない。
WEB媒体や何か別の道を模索することで、こういうものは続いていくと思います。

「いつかまた、ファンの方とお話がしたいですね」(安井)

――4月29日には書泉ブックタワーにて『ラグナロク:Re』のサイン会が開催されました。
安井
4月にしては暑い日だったにもかかわらず、たくさんの方に来ていただけて本当にうれしかったですね。
僕にとって大切な思い出です。
――担当編集曰く、「女性のお客さんの多さに驚いた」とのことでした。『オーフェン』も、やはり女性ファンがたくさん?
秋田
多いほうだと言われていました。
今でも男女比率的には5:5くらいと編集の方からは聞いています。
以前『フルメタル・パニック!』等を手がける賀東さんとお話をした時、「サイン会に来るくらい熱心な読者さんって、だいたい女性だから、サイン会って女性が多くなりますよね?」と聞いてみると、「そんなことはない」と真顔で言われてしまいました。
安井
『フルメタル・パニック!』ほど部数が出ているなら、女性読者も多かったとは思いますが、やはりコアなファンは男性が中心になりそうですからね。
――『ラグナロク:Re』に女性のファンが多い理由を、安井さんはどのように考えていますか?
安井
以前とある女性の作家さんと話をした時に言われたのが、主人公と相棒の関係性ゆえでは? というものでした。
秋田
「バディもの」ってテッパンですものね。
安井
ですが、実際はそれが正解なのかはよく分かりません(笑)。
いつかまた、ファンの方とお会いした時には、ぜひその話を聞いてみたいですね。
――では、『オーフェン』のほうはいかがでしょうか?
秋田
そうですね。
うーん……。
安井
文章に独特の感性があるから、だと僕は思いますよ。
秋田
何か言った後に、「いや、○○だ」といちいち否定するような、あのめんどくささですね(笑)。
「今日は晴れてる。いやそうでもない」とどうでもいいことをいちいち否定するという。
よくからかわれました。
安井
キャラクターの心情を書いた後に、「どうでもいい」って言っちゃうんですよね、地の文で。
秋田
やさぐれが入ってます(笑)。
安井
あと、僕らがデビューした頃は女性向けのラノベはほぼなかったですからね。
それもひとつの理由なのかなとは思います。
――「文章に独特な感性がある」と『オーフェン』を読んだ安井さんは感じたようですが、秋田さんは安井さんの著作を読まれて何か印象に残っていることは?
秋田
当時みんなに言われていたことを含めてですけれど……、ここまで男臭い話って、ありそうでなかったと思うんですよね。
次から次に戦う状況が現れてはバトル。
そしていい女がいればやっちゃうか、すでにやってるという。
そういうのって劇画とかアクション映画の世界ですよね。
そして何より一番特徴的と言えるのは、それをずっと続けたこと。
どこにもブレやテコ入れがないこと。
それも含めての男らしさでしょうか。
――『オーフェン』の制作時のスタンスとして、これだけは一切変えていない、というものはあるのでしょうか?
秋田
それはないですね。
臨機応変に変えている感じです。
男らしさゼロで。
安井
僕、秋田さんにずっと聞きたかったことがあるんですよ。
秋田
なんですか?
安井
『オーフェン』は一度完結を迎えて、『魔術士オーフェンはぐれ旅 新シリーズ』として続編が出ているじゃないですか。
その新シリーズでは、オーフェンがかなり年を経た状態で登場し、さらにはクリーオウと結婚もしている。
当時どんな反応がありましたか?
秋田
あんまりレスポンスをはっきりと見たわけではないんですが……。
編集者さんから聞いた話によると「恋愛、結婚というくだりを省略していきなり子持ちになっているんで、いまだに、その間の話を読みたい要望は常に来ています」とのことでした。
安井
書かないんですか?
秋田
だって先の話を書いているので、もう逆算して書き終わったようものじゃないですか。
結果が分かっているんですよ(笑)。
――書きたいものを書くということがモチベーションにも繋がりそうですからね。ちなみに、お2人の一番筆が乗るタイミングはどういう時でしょうか?
秋田
生まれてきてこの方、筆が乗ったことは一回もないので分からないです(笑)。
もうひいひい言いながら書いています。
安井
すごく分かります。
秋田
(笑)
安井
(笑)
秋田
つらい、イヤだって言いながら書いていますよ。
仕事ですからね。
そんなに楽をして書いちゃいけないな、ってことなんですけれど。
安井
分かります……!
――お仕事と言えば、秋田さんはアニメ作品のノベライズを含めて、非常に多岐にわたって活躍をしています。今、これに挑戦してみたい! というものはありますか?
秋田
良い話があったらなんでもやります(笑)。
ずっとこう答えていて、「そんなの当たり前だろ」って誰かがツッコんでくれるのを待っているんですが、皆さん真に受けているのか誰もツッコんでくれないんですよね……。
という話はさておき、仕事があればなんでもやりますよ、だって仕事ですから。
もちろん、技量的にできないこともあるかもしれないですけど、できるのであればなんでもやります。
――プロフェッショナルですね。
秋田
仕事ですから(笑)。
そういう仕事なので。
安井
僕ら作家はそうですからね。
仕事がないと何も始まらない。

「自分の書きたいものを書くのが一番」(安井)
「書き上がったものに勝るものはありません」(秋田)

――お2人とも、もう長いお付き合いになると思うのですが、お互いに何か印象に残っているエピソードはありますか?
秋田
だいぶ前の話ですけど、なぜか『X-ファイル』の話になったんですよ。
『X-ファイル』は今となっては続編も制作されていますが、当時は『シーズン9』がラストで。
そして私が安井さんに、「『シーズン9』がファイナルシーズンだ」と言った瞬間に安井さんに「ネタバレだ!」って怒られたことあって。
「あれはネタバレだったのか……?」とずっとモヤモヤしてました。
安井
それかぁ!(笑)
秋田
だって「ファイナルシーズン」って書いてあるじゃん! と(笑)。
安井
その時は多分、それで終わると知らなかったんでしょうね(笑)。
――安井さんはどうですか?
安井
特にこれ! というのはないぐらい、秋田さんとは取り留めのない話をすることが多いですから、ポンとは思いつかないですね。
ゲームとかアニメとか映画の話をよくすることは覚えています。
――お2人の仲の良さが垣間見えますね。話は変わりますが、今ご自身の中で、何かマイブームはありますか?
安井
僕はネトゲでしょうか。
『ファイナルファンタジーⅪ』からはじめて、今は『ファイナルファンタジーXIV』をプレイしています。
オンラインゲームなのに、ほぼひとりで遊んでますね。
蛮族デイリーやったりリテイナーベンチャーやったり。
あ、空想帳だけはほかの人と遊びますね。
知らないとなんのことかさっぱりだと思いますが(笑)。
――秋田さんは?
秋田
以前は舞台や演劇にハマっていたこともあったんですが、ちょっと見過ぎて飽きてしまったんですよね。
ひとつのものにハマると、入れ込んでしつこく研究するんですよ。
海外ドラマや映画もそうでした。
あ! すごい今更ではありますが、WEBアニメシリーズの『RWBY』がすごく面白いですね。
Blu-ray買い集めました。
お話的には『NARUTO』のような日本の作品の影響を多大に受けている感じがするんですが、いわゆる連続ドラマのような話づくりがあったり、バランス含めてよくできてるんですよ。
――ありがとうございました。では最後にラノベ業界に長年携わってきた先達として、若い作家の方たちに伝えたいことがあれば、お願いいたします。では、まず安井さんから。
安井
インターネットでいろいろ書かれても、気にしないほういいですよ、ということでしょうか。
気にする子は気にしちゃうと思うんですよ。
でも、裏を返せばいろいろ書かれるということは、たくさんの人が見てくれているってことですから。
「ここがつまらない」とか「これが面白くない」と言われたら、逆にそこが自分の武器なのでは? と考えてもいいと思うんです。
僕はアクションが好きでアクションを書いているんですけれど、インターネットでは「アクションばっかり! 戦闘ばっかり!」と批判をする人も確かにいます。
ですが、アクション書かないでと言われても、それしか書きたいものがないから困っちゃいますね。
人に何かを言われても、絶対に譲れない部分というのは、持っておいたほうが良いと思います。
ぜひ、あなたが書きたいと思うものを書いてください。
――次に秋田さんもお願いいたします。
秋田
アドバイスと言えるのかは分からないですけど……。
これは私が確信していることなんですが、若い子が書いてるものは絶対私の作品より面白いはずなので、それは信じて良いんじゃないかなと思います。
絶対面白いものを書けているはずです。
――自信を持って、作品を書き続けてほしいと。
秋田
そうですね。
それに、若いというだけでも価値があります。
別に、迷う必要もないですし、しゃちほこばる必要もありません。
「面白いとはなんだ」なんてことを突き詰めて考えるとなんだかよく分からなくなりますが、そんな御託より、書き上がったものに勝るものはありません。
なので、書きましょう。
Profile

秋田禎信 あきた・よしのぶ

作家。主な著作に『魔術士オーフェン』シリーズ、『ハンターダーク』等がある。
『魔術士オーフェンはぐれ旅 新シリーズ 手下編』が現在発売中。
http://www.ssorphen.com


Profile

安井健太郎 やすい・けんたろう

作家。主な著作に『ラグナロク』シリーズ、『アークⅨ』等がある。
『ラグナロク:Re 2.獣たちのミメーシス』が現在発売中。
https://www.amazon.co.jp/dp/4865543759