第6回オーバーラップ文庫大賞特別編 紙木織々

今回の「作家のしゃべり場Z」は特別編!
第6回オーバーラップ文庫大賞の受賞者、計4名のインタビューを一挙掲載。
『弱小ソシャゲ部の僕らが神ゲーを作るまで1』(以下『弱小ソシャゲ部』)で〈金賞〉を受賞した紙木織々に、作品について、そして創作の原点について聞いた。


――小説を書き始めたきっかけを聞かせてください。
紙木
中学生の時に書いたKeyの『CLANNAD』の二次創作小説が初めて書いた小説でした。
それまで小説は全く読んでいなかったので、「読む」よりも「書く」の方が先走った変なタイプだったのかもしれません。
しばらくしてから「もしかして、小説を読んで書き方を知らないとダメなのでは?」ということに気がつき、色々な小説を読み漁り始めました。
そうして読んでは書き、読んでは書き……と繰り返している内に小説そのものにのめり込み、今に至ります。
――小説執筆時、何か心がけていることがありましたら聞かせてください。
紙木
心がけていると言えば、キャラクターの描き方でしょうか。
ひとつは、キャラクターが現実にはなかなか存在しないような個性的な特徴を備えているかどうか。
もうひとつは、それと同時に、そのキャラクターが現実に存在していそうだと感じることができるような、人間的な面を描けているかも意識しています。
また、そうしたキャラクターを描くためにも「物語や作者の都合で、キャラクターの心情や行動を曲げていないか」といった点は、執筆中も気にかけています。
――それでは受賞作品である『弱小ソシャゲ部』を書き始めたきっかけはなんでしょうか?
紙木
投稿作を書いた時は「とにかく自分の書きたいものを書きたいように書いてやろう」と思っていたので、その時に一番書きたかった「青春真っ只中のクリエイターの物語」として投稿作を書きました。
ただ一方で、そうした根本的な動機とは別に、新人賞に投稿した際、どうやって他の方との差別化を図るかも考えていました。
ソーシャルゲームの「開発」や「運営」の面にスポットを当てた作品は珍しそうだったので、作品の特徴として勝負できる要素だと踏んで、投稿作を書き始めました。
――今までの新人賞への投稿歴を聞かせてください。
紙木
今回が人生で二度目の投稿です。
一度目は大学生の時で、自信満々で初めての投稿作を書き……あっさり一次選考落ちしました。
当時、「一次選考はまともな文章さえ書けていれば通る」的なことを耳にしていたので、正直結構なショックを受けました。
自分はまともな文章すら書けていなかったのか、と。
今の僕なら、そんな根拠のない一般論には「そんなわけあるか!」と吠えますし、何次の選考であろうと文章の出来だけではなく「どんな個性や面白さを備えた小説になっているか」が重要なんだろうと思っています……が、当時の僕はそこまで頭が回らなかったので、とにかくショックを受けていました(笑)。
ただ、そのショックをきっかけに「自分が何を書きたいのか」ということを真剣に考え始めたのは覚えているので、結果的にあの時は落されてよかったんだろうと思うようにしています。
――選考過程の評価シートにて、印象に残っている評価コメントがあれば聞かせてください。
紙木
幾つかあります。
まずひとつは、一次選考でいただいた「続きを読みたいと思わせる作品だった」という主旨のコメントです。
「続きを読みたい」という言葉を見た時、大げさですが「自分の小説はどこにも届かないわけではないらしい」と思い、本当に励みになりました。
ほかの選考過程のコメントでも「キャラクターがエンタメ的な個性と等身大の少年少女らしさを兼ね備えている」「心理描写が的確」などの注力した部分を汲み取っていただいたコメントや、一番書きたいと思っていたシーンをピンポイントで「すばらしい」と褒めていただいたコメントも印象に残っています。
――紙木織々さんが考える、『弱小ソシャゲ部』のイチオシポイントはどんなところでしょうか?
紙木
「ソシャゲ」と聞いて読者の方がきっと想像するだろう要素については、期待を裏切らないよう可能な限り真っ向勝負したつもりです。
「ガチャ」とか「課金」とか「運営」とか、そういう要素ですね。
そもそもそうした要素に向き合わないと、コンシューマーゲーム開発などではなく「ソーシャルゲームの開発・運営」を題材にした意味がほとんどなくなってしまうと思っていたので、ここはとにかく頭を悩ませました。
きっとイチオシポイントになるはず……なってほしい……!
――では『弱小ソシャゲ部』にキャッチフレーズをつけるとすると、どのようなフレーズになりますか? 理由と併せて聞かせてください。
紙木
「諦められなかった全ての人へ」
というフレーズを考えてみました。
本作で舞台にしている高校という場所は、ひとつの側面として、自分と他者の間にある差を明確に感じることになる分岐点だと思います。
勉強の成績や、実力、才能、積み上げてきた努力の多寡……理由はどんなことであれ現実を目の当たりにして、大事にしてきた何かを「あきらめる人」と「あきらめない人」、そして「あきらめられなかった人」に分かれていく場所です。
そうした中で、それでもやっぱり、あきらめられなかったキャラクターたちを描いているのが、本作です。
大事にしてきたものを、そう簡単にあきらめられたら苦労はない。
あきらめられない何かを抱える全ての人へ、この作品が少しでも届いてくれればうれしいです。
――『弱小ソシャゲ部』の受賞が決まった際の、率直な気持はどのようなものでしたか?
紙木
当然、うれしかったです!
ただそれと同時に、数年振りに投稿をした途端に受賞の連絡をいただき、正直なところ困惑や驚きも大きかったなぁ、と。
もちろん受賞するつもりで投稿はしましたが、実際問題として現実はそこまで甘くないと覚悟していたので。
――『弱小ソシャゲ部』を刊行するに際し、書籍化の作業も進んでいることと存じます。何か苦労されたエピソードなどはありますか?
紙木
小説を書くことはどんなことでも大変なんですが……執筆そのものというより、特別なプレッシャーがあったのはスケジュール面ですね。
第2ターンでの受賞だったため受賞から刊行までのスパンが短く、そういう意味で迫ってくる締め切りが怖かったです(笑)。
――キャラクターデザインのイラストを見て、何か新たな魅力を発見できたキャラクターなどはいますか? 魅力を感じた箇所と併せて聞かせてください。
紙木
イラストを担当していただいた日向あずりさんが、本当に深くキャラクターを把握してデザインを起こしてくださったので、どのキャラクターもそれぞれのらしさがある魅力的なデザインになっていると感じています。
その上で新たな魅力の発見という点では、黒羽絵瑠くろば・える黄島文おうしま・あやという主要キャラクターの二人(ともに作中におけるサブヒロイン)ですね。
この二人はかなりクセが強いキャラクターなんですが、デザインの過程で外見的な特徴が加えられたことで、キャラクターがより強固に立った印象があります。
絵瑠のつけているヘッドホンなどがそうですね。
――『弱小ソシャゲ部』のどのようなポイントが、新人賞受賞のきっかけになったと考えていますか? 
紙木
僕自身も詳しく知りたいところです……!(笑)。
おそらくは、ソシャゲ開発・運営という題材の新鮮さがあったこと。
また、目新しさだけではなく、おもしろいキャラクター小説になるよう心がけていたこと。
この二点だろうと思います。
実際、評価シートでいただいていたコメントでも、この二点は評価されていたかなと。
――最後に、オーバーラップ文庫大賞へ投稿をしようと考えている方へ、ひと言コメント(アドバイス)をお願いします。
紙木
僕自身、投稿は数年ぶりでしたがずっと書き続けてはいたので、「あきらめず書き続けること」は当然として。
自分が何を書きたいのか。
それを理解しておくことが必要なのかなと思います。
作品ごとに考えるテーマのようなものではなく、自分の中の軸のようなもののイメージですね。
たとえば「紙木さんは何を書きたいんですか?」と尋ねられたとして、その時に何も答えられないようでは話にならないと思うからです。
とはいえ、別に、この言葉を信じる必要はありません。
僕もまだ賞を取ったばかりの新人ですから、本当に、こんな偉そうなことを言える立場ではないのです。
もし、僕の小説を読んで、少しでも信頼できると思っていただけたなら、好きなように参考にしてください。
そうでなければ僕の言葉なんて無視して、ただあきらめることなく、あなたが心底書きたい物語を書いてください。
僕が読者なら、そういう小説を読みたいですし、きっとそれで十分だと思います。
Profile

紙木織々 しき・おりおり

第6回オーバーラップ文庫大賞〈金賞〉を受賞しデビュー。
受賞作『弱小ソシャゲ部の僕らが神ゲーを作るまで1』は2019年12月25日オーバーラップ文庫より発売。
https://www.amazon.co.jp/dp/4865545840