第7回オーバーラップ文庫大賞特別編 中島リュウ

今回の「作家のしゃべり場Z」は特別編!
第7回オーバーラップ文庫大賞の受賞者、計3名のインタビューを一挙公開するぞ。
『Re:RE -リ:アールイー- 1 転生者を殺す者』(以下『Re:RE』)で〈銀賞〉を受賞した中島リュウに、作品について、作品やその見どころについて、そしてオーバーラップ文庫大賞について聞いた。


――まずは『Re:RE』を書き始めたきっかけを聞かせてください。
中島
実はある意味で、この作品が人生で初めて書いた小説なのです。
といっても、十年以上かけて何度も書き直し続けて、途中で別の作品を書くため立ち止まったりもしつつ、迷走しながらようやく書き上げることができました。
おおむね現在のような形になったのは、およそ三年前に古代ギリシアの叙事詩『イリアス』を読んだことがきっかけです。独特の文体を、現代のライトノベルの中で再現したいと考えるうちに、古代ギリシア風の世界観が出来上がりました。
――中島リュウさんが考えるオーバーラップ文庫のイメージは? そのイメージを踏まえて、本作をオーバーラップ文庫大賞へ応募しようと思った理由を聞かせてください。
中島
実を言うと、私は新人賞の応募先を探す中で初めてオーバーラップ文庫のことを知りました。私の不勉強ということもあるのですが、それくらい若くてフレッシュなレーベルということでもあります。
当時私は、すでに他の新人賞に十回程度応募していたものの、選考結果は鳴かず飛ばずでした。単純な技量が足りないことは仕方がないとして、私の書きたいものが既存のライトノベルらしくないことも一因ではないかと考えたのです。
その点で、業界後発のオーバーラップ文庫なら、まだレーベルの色が固まりきっておらず、受け入れてもらえる余地があるのではないかと考えました。
早速応募した第七回前期応募では、最終選考まで進んだものの、あえなく落選。しかし脈アリと感じ、大急ぎで書きかけだった『Re:RE』を完成させ、半年後の後期応募に投稿、現在に至ります。
――オーバーラップ文庫大賞では、1次選考からすべての応募者に対して評価シートが送付されます。何か印象に残っている評価コメントは?
中島
まず、最終選考で落選してしまった前期応募の作品についてですが、選考が進むにつれて計6つもの講評をいただき、読み比べることができました。
作品の批評を受けるというのは、書き手にとってはありがたくも苦しいことで、時には読み手を疑いたくなる気持ちになることもあると思います。ですが作品にとって重大な欠点があれば、複数の講評で指摘されるので、素直に受け入れることができます。私の場合、物語が伝わりやすくなるようにもっと読者をイメージして、といった指摘が多く、次の作品に反映することができました。
読みやすさへの配慮が必要という指摘は、後期応募のほうでも多かったので、もはや私自身にとっての宿痾であるようです。しかし、それを気づかせてくれたのも、講評があればこそでした。
受賞に至ったからといって、講評の内容が甘くなったりする、ということはありません。しっかり改善点をあげてくれます。受賞作のほうでは、主人公の目的が達成されていない、登場人物数が多すぎるといった指摘が多くあがりました。
キャラが多く、ひとりひとりに割く描写が不足しているという問題については、受賞後思いがけない方法で解決を提案されました。まだお話しできないのが残念ですが、編集部の英断に感謝しております。
――担当編集より受賞の連絡を受けた際の率直な気持を聞かせてください。
中島
実は、意外に驚きませんでした。自信があったからではなく、この時のことを何度もイメージしていて、先に感動がすりきれてしまっていたのかもしれません。
――本作のコンセプトを聞かせてください。また、そのコンセプトを大事にするため執筆時心がけたことがあれば、併せて聞かせてください。
中島
いろいろあって迷ってしまいますが、では王道について。
私が書きたいものは、大人の主人公であったり、転生者との戦いだったりと、とにかくライトノベルの王道からはずれたものばかりでした。それでも読者に楽しんでもらえるようにするには、ライトノベル以外の王道を取り入れる必要があるのではないか。そう考え、少年漫画を読み返して、王道を学び直したのです。いつも流行からはずれることばかり考えていましたが、やはり王道展開というものは気持ちがいいですね。
おかげで心置きなく、わけのわからないものを登場させられます。
――発売に向け、現在は書籍化の作業が進行中だと存じます。何か苦労されたエピソードはありますか?
中島
苦労といいますか、苦労を減らすために、受賞を機に仕事をやめてしまいました。とても無謀ですよね。いつか必ず後悔する日が来るでしょう。しかし、それも含めて、これで良かったと思っています。
職場の方には迷惑をかけてしまったので、そればかりが心残りです。
――では、キャラクターデザイン・カバーイラストを初めて見た際の感想は?
中島
ようやくこどもたちに会えました。
結局のところ、このイラストを見るために、私は小説を書き続けてきたのです。
――本作を(特に)どんな方に読んで欲しいですか? その理由と併せて聞かせてください。
中島
流行に飽き足らない方に。また、次の流行を模索している方に。
新しさや珍しさというものは、多くの場合おもしろさを意味しません。しかしどんなにおもしろいものでも、同じようなものばかりだと、多分飽きます。
もちろん、普通じゃないものをおもしろくするために、いろいろ仕掛けを考えました。ぜひ読んでみてくださいね。
――数多くのキャラが登場する本作ですが、とくに難産だったキャラは誰でしょうか? 理由も併せて聞かせてください。
中島
主人公のディルです。
初めはこどもたちとの関係を、恋人みたいな睦まじさとして描いていたのですが、冷静に考えると、だったら最初から恋愛関係でいいし、親子でそれをやるのはちょっと違うよなあと。
結果として、なぜ親が子を愛するのか、こどもの魅力とは何かを掘り下げて考えることになったので、良かったと思います。しばしば悪役にされがちな親という存在を、ライトノベルの中で主人公にできたことに満足しています。
――逆に、最も描きやすかったキャラクターを聞かせてください。
中島
霧崎ぬえという女の子が登場するのですが、基本的にただのあほです。
大人や友達の気を惹こうとして、いろいろ変なことをしますが、その辺りは自分自身のこどものころを思い返して書きました。あほだったのです。
そういった行動が、寂しさの裏返しであると気づいてからは、ますます筆が進むようになりました。
――中島リュウさんが考える、本作でいちばんこだわって執筆した箇所はどんなところでしょうか?
中島
叙事詩『イリアス』を再現した文体です。
戦闘描写や、味方を鼓舞する演説で、ホメロス独特の言い回しに近づけるよう努力しました。
転生者という、新しいものの出現で否定されようとしている、古きものたちの反撃の雄叫びに、これ以上ふさわしいものはないと思います。
塗りつぶされてたまるかよ。何か爪痕残してやる。
この時代に叙事詩を歌うことの意味を、考えました。
――最後に、オーバーラップ文庫大賞へ投稿をしようと考えている方へ、ひと言コメント(アドバイス)をお願いします。
中島
すでに書きましたが、オーバーラップ文庫はまだ若く、フレッシュなレーベルです。
過去の受賞作を見てもわかる通り、ジャンルにはばらつきがあり、多様性があります。
他の新人賞では門前払いになった作品でも、ここでなら受け入れてもらえるかもしれません。私がそうだったように。
それは今の流行ではない。そう言われるような作品で、新しい流行を作れたら、めちゃくちゃかっこいいと思いませんか。失敗したっていいんです。分析して、また次を書くだけです。
……編集部的には、うれしくないかもしれないけど。
一緒に新しくて、おもしろいものを作りましょう。競争ですよ。
――ありがとうございました!

Profile

中島リュウ なかじま・りゅう

第7回オーバーラップ文庫大賞〈銀賞〉を受賞しデビュー。
受賞作『Re:RE -リ:アールイー- 1 転生者を殺す者』は2021年1月25日オーバーラップ文庫より発売。
https://www.amazon.co.jp/dp/4865548211