Page.05 鵜飼沙樹

イラストレーターへのインタビュー企画である本企画。
第5回目は『異世界迷宮の最深部を目指そう』のイラストを手がける、鵜飼沙樹。
その独特な感性とタッチから描かれるイラストは、作品の世界感を広げ、多くのファンから支持されている。
そんな氏のイラストの原点、そして目指すところを探るためインタビューを敢行した。


――1番最初にイラストを描き始めたころのことを覚えていますか?
鵜飼沙樹
母曰く、幼稚園へ通う前からお絵描きをしていたようですが、私が覚えている範囲では幼稚園のころでしょうか。
その休み時間に、お姫様やお花の絵を自由帳に描いていましたね。
――物心つく前から絵を描いていたんですね。
鵜飼沙樹
はい。
絵を描くことがとにかく好きで、幼稚園や小学校の休み時間はずっと絵を描いていました。
特に漫研のような部活には入っていませんでしたが、中学校でも日常的に描いていたのを覚えています。
――描くことが大好き! というのが伝わってきます。ちなみに、小学生の時はどんなイラストを描いていたのでしょうか?
鵜飼沙樹
小学生のころは『ポケットモンスター』のイラスト、特にホウオウを描いていました。
というのも、当時『ポケットモンスター』がクラスですごく流行っており、友達から「描いて描いて!」とよくお願いをされたんです。
人物画では種村有菜先生の『神風怪盗ジャンヌ』のイラストを描いていました。
キャラクターもさることながら、衣装もとてもかわいいものだったので、よく模写をしていた記憶があります。そしてラクガキ程度ではありますが、オリジナルのイラストも描いていました。
――では、その頃にはもうイラストレーターになりたいと?
鵜飼沙樹
そのころは特になりたいものはなかったので、ハッキリとは意識していませんでした。
手に職をつけるなら絵はありかな、とは考えていたのですが。
なので、意識したのは高校生の時でした。
――それには何かきかっけが?
鵜飼沙樹
卒業後の進路を決める必要があったから、ですね。
ですが、ずっと描き続けてきた絵の道に進み「イラストレーター」になるか、もしくは当時興味があった声の道に進み「声優」になるかで迷ってしまい……。
――声の道にも興味があったんですね。そういえば、「絵師100人展 09」で鵜飼さんはガイド音声にも挑戦されていたようですね。とても綺麗な声で、話題になっていると伺いました。
鵜飼沙樹
ありがとうございます(笑)。
恐らくレコーダーがとても高性能なものだったのかなと……。

――そんなことはないですよ。弊社の編集部でも「鵜飼さんの声がとてもかわいい!」と評判でしたから。
鵜飼沙樹
そうおっしゃっていただけると、とてもうれしいですが、すごく恥ずかしいですね……!
自分の声についてはわからなかったのですが、声で何かを表現することには興味があったので、高校では放送部に所属していたんです。
ほかにも漫研、軽音部も掛け持ちしていましたが。
――すごくアクティブですね……! 少し話は逸れてしまうのですが、軽音部では何を担当されていたのでしょうか?
鵜飼沙樹
ドラムですね。
中学のころは吹奏楽部に入っていたのですが、最初の部活紹介の時に見たドラムの演奏がとても恰好良くて。
高校ではギターをやりたくて軽音部に入ったのですが、ドラム経験者が私しかいなかったので、ドラムになっちゃいました。
――鵜飼さんの新たな一面を知ることができたような気がします……! では話を戻しまして。絵の道と声の道で迷われていた鵜飼さんはどちらの道を選択されたのでしょうか?
鵜飼沙樹
声の道でした。
門外漢だからこそ、専門学校に入ってしっかり勉強し、適正をみてみよう、と。
――そして2年間声の勉強をされたんですね。
鵜飼沙樹
はい。
ですが最終的に、ちょっと自分には合わないかも、と感じたんです。
その結果卒業を機に、イラストを本格的にやってみよう! となりました。
――そしてイラストレーターとして活動を開始した鵜飼さんではありますが、「こんなイラストを描きたい!」と思うようなイラストレーターがいれば聞かせてください。
鵜飼沙樹
描きたい、というのとは少し違うかもしれませんが、キム・ヒョンテ先生のイラストはすごく好きでした。
鮮やかで、滑らかで、私たち日本人とは異なる感性で描かれたイラストがとても新鮮に映ったのを覚えています。
あとは大暮維人先生でしょうか。
独特なセンスで描かれているので、ひと目見れば「大暮維人先生のイラストだ!」と分かりますし、あとは描かれるイラストすべてが目新しい感じがするんです。
――お2方とも、とてもステキなイラストを描かれていて、なおかつ独自性もあるので一度見たら忘れられないですよね。では次に、イラストではなく鵜飼さんが好きな作品についてもお伺いします。本を読むのは?
鵜飼沙樹
とても好きですね。
本も小さいころから読んでいました。

――憶えている1番古い記憶で、印象に残った本はどんなものでしたか?
鵜飼沙樹
レオ・レオニさんの『スイミー』ですね。
赤い小さな魚がいっぱい暮らしている海が舞台なんですが、主人公のスイミーだけが黒い色をしているんです。
そしてある日、大きな魚に襲われそうになるんですが、赤い魚たちが寄り集まり、スイミーは自分の体の色を生かして目に擬態。
みんなで大きな魚の形になることで、自分たちを襲った魚を追い払う、というお話しだったかなと。他者と違っていても何かの役に立てて貢献できるんだ! と、子供心ながらにカタルシスを感じられた作品なので、とても好きでした。
――ライトノベルやマンガではいかがでしょうか?
鵜飼沙樹
ライトノベルだと浅井ラボ先生の『されど罪人は竜と踊る』。
マンガだと、冨樫義博先生の『HUNTER×HUNTER』でしょうか。
どちらの作品も、世界観、設定、そして展開の読めなさにすごく惹かれていました。
特にストーリーにどっぷりとハマっていたので、本当に好きな作品です。
――他には、好きでよく読まれる本などはありますか?
鵜飼沙樹
文化史の本や、写真集ですね。
お仕事の資料として購入するこもありますが、それとは別に好きだから買っているものもあります。
――エンタメに寄らず、本全般がお好きなんですね。
鵜飼沙樹
イラストを描くことと同じぐらい好きです。
ちなみに最近買ったのは、キッチンの歴史について書かれた本や、雪の町の写真集でした。
チョコレートの歴史、ベッドの歴史なども読みましたが、本当に面白くて。
私にとっての一番贅沢な時間が、のんびりと読書をしている時なので、これからもいろいろな本を読んでみたいです。
――面白かった本があれば是非教えてください……! では次に鵜飼さんのイラストについてもお伺いできればと思います。幼少時からずっと絵を描き続けている鵜飼さんですが、ご自身の描いたイラストで思い出深いものは?
鵜飼沙樹
小学生の時に描いた絵でしょうか。
みんなが運動場で、運動会の練習をしている風景をクレヨンで描いたものだったのですが、その絵が地元の市の賞に選ばれて。
母がとても喜んでくれたので、思い出深いです。
あとは、そうですね……。
イラストを描くこと自体がやっぱり大好きなので、描いたイラスト、お仕事で描いた絵や、Twitterに上げているオリジナルのイラストも含めて全部が全部思い出深く。
――時間と労力をかけて、自分で生み出したものですからね。
鵜飼沙樹
はい。
だからこそイラストに対するレスポンスをいただけると、本当にうれしいんです。
編集の方から「いいですね~」と言われた時はもちろん、Twitterで作品のファンの方から「作品のポイントがこんなところにも反映されていますね!」みたいな感想をいただいた時とか。
――Pixivにて、鵜飼さんのイラストとコメントを見ていても思ったのですが、作品の内容・要素・ストーリーが、これでもか! とばかりにイラストの中に詰め込まれているように思います。だからこそ、見ていて本当に引き込まれるんですよね。
鵜飼沙樹
そうおっしゃっていただけるとうれしいです。
イラストにストーリー性を持たせることは好きですし、それ以外にもイラストの細かいところを描くのが好きなので。
だからこそ、そこに言及した感想をいただけると「そんな細かいところまで見てくれているんだ! 描いてよかった~」と、とても幸せな気持ちになります。
――イラスト作業についてお伺いしたいのですが、作業の中で一番時間をかけるのはどの工程なのでしょうか。
鵜飼沙樹
やはり構図を考えるのが一番時間がかかりますね。
私のイラストの描き方としては、ラフとかは描かず、いきなり色を塗るというものなんです。
もちろんお仕事ではラフを描くのですが、どちらの場合も一番最初、つまりどういうイラストにしようかなという設計の部分に一番時間を割きます。
――お仕事以外のイラストは、いきなり色から塗り始めるんですか!?
鵜飼沙樹
はい。
小さい時からのクセで、とりあえず塗りながら「どんなイラストにしようかな?」と考えるんです。
といってもお仕事でラフを描くようになってからは、「こっちのほうが効率的だな」と気づきました。
なので単なるクセですね(笑)。
――では、そんな鵜飼さんが描いていて楽しいキャラクターや好きなキャラクターは?
鵜飼沙樹
そうですね……。
女の子で、王道というよりはちょっと浮いているようなキャラクターが好きですね。
というのは、私もそうなんですが人って自分と異なる存在に惹かれると思うんです。
だからこそ、浮いていたり、浮世離れしているような存在を目にすると、親近感であったり、憧憬の念を抱く。
だからこそ好きなんだと思います。
――もしかすると、それが伝わっているからこそ、鵜飼さんのイラストは多くの人を惹き付けているのかもしれませんね。では、鵜飼さんが今後挑戦してみたい作品のジャンルなどがあれば聞かせてください。
鵜飼沙樹
第4回のオーバーラップさんの文庫大賞でイラストを描かせていただいたんですが、それが木漏れ日というか、石造りの町の一角で女の子が秋の日の振り返ってるイラストなんです。
そんな現実の……うまく言葉にできませんが、異国情緒のテイストが感じられるような作品に挑戦してみたいな、と考えています。
――異国情緒ですか。それには何か理由が?
鵜飼沙樹
ヨーロッパとかイスラム圏が好きだからです。
石畳の道や、古い町並み、ピラミッドや女の子のきらびやかな服装……それらを目にしていると、幸せな気分になるんです。
なので、お仕事でもそういったものを描くことに挑戦してみたいなと。
――新たな物事に挑戦することによって、創作のセンスもさらに磨かれていくように感じます。
鵜飼沙樹
はい。
私もそう思うんです。
だからこそ、現実でもいろいろなことに挑戦してみよう! と考えています。
なので、つい先日初めて登山をしました。
――どこの山に登ったのでしょうか?
鵜飼沙樹
富士山です。


――いきなり日本最高峰に行ったんですね……!
鵜飼沙樹
はい。
疲れましたが、楽しかったです!
たくさんの人がいたので、山登りしている人ってこんなにもいっぱいいるんだ、と。
まだまだ自分の知らないことはいっぱいあるんだなあと感慨深くなりました。
でも残念なことに、天気が悪く御来光は拝めなかったんです。
なので、もう一回登ってみたいなと考えています。
――部活動掛け持ちの時もそうでしたが、あらためて鵜飼さんのアクティブさに驚いています。ほかには、何かやってみたいことは?
鵜飼沙樹
英会話でしょうか。
PixivやTwitterでは、英語でメッセージをいただくことがあるんです。
そんな時英語が話せたら、会話ができる方も増えて、世界が広がるのでは? と感じているので。
――海外旅行でも役立ちそうですからね。
鵜飼沙樹
そうなんです。
以前海外へ旅行に行った時、リスニングはできるのですが、話すことができずとてももどかしい思いをしたことがあったので、その役にも立ちそうだなと。
海外では、観光地なら日本語の案内があるかもしれません。
でも私は、そういった所よりは人々の生活が根付いているような、そんな地方の村みたいな所に行ってみたいんです。
そして会話をとおして、実際の生活を感じられたらとても楽しいだろうな~と思うので。
――鵜飼さんのそのチャレンジが成功するように、私も陰ながら応援させていただきますね。では最後にファンの方へメッセージをお願いいたします。
鵜飼沙樹
いつも応援いただいて本当にありがとうございます。
いただいているメッセージのひとつひとつが、すべて励みになると同時に、やりがいにもなっています。
お仕事が忙しくなったので、SNSでの返信ができなくなってしまいましたが、いただいたメッセージは全部拝読させていただいています。
これからもがんばりますので、よろしくお願いいたします!

Profile

鵜飼沙樹 うかい・さき

『異世界迷宮の最深部を目指そう』のイラストを手がけているイラストレーター。
第1~12巻がオーバーラップ文庫より発売中。
最新第13巻は2020年初頭発売予定。
https://www.amazon.co.jp/dp/4865545247